お節介おばさんと、無関心クールガイ
駅を出たところの、1本の木を丸く囲っている腰掛。そこに座ると、男女の声が聞こえてきました。
女「しつこい。キモチわるい」
男「お前は何にもわかってねーよ」
振り向くと、僕のいるところからちょうど反対側にカップルが座っていました。どうやら別れ話のようです。
彼女「こんな貧乏したことない!」
彼氏「お前は何にもわかってねーよ!」
次第に大きくなっていくカップルの声。僕はイヤホンの音量をほとんど何にも鳴ってないくらいに下げました。盗み聞き?いえ、いい意味で音量を下げました。いい意味で。
彼女「私は四ツ谷に帰るから!」
彼氏「お前は何にもわかってねーよ!」
いや彼氏サイドの品ぞろえの悪さは何なのと思い始めた時、彼女が立ち上がり歩き出しました。僕は前を向き直し知らん顔を決め込みます。
「ついて来ないで!」
「お前は何にもわかってねーよ!」
そして僕の隣に座りました。
「だからついて来ないでって言ってるでしょ!」
(以下同文)
僕はほとんど流れて来てない音楽に、体を左右に揺らしながらノリました。この時思ったのです。まあーまあーまあーまあー。若いっていいわねー。とか言ってこのケンカを止めたいと。僕の中のお節介おばさんがそう言ってるのです。頭の中で悪魔と天使が戦って、ぐへへ夜食にラーメン食べちゃえよー。そんなのダメよもう十分一日の摂取カロリーはとったはずよ。みたいな攻防が繰り広げられているのです。ダメだ言いたい。お節介おばさんが悪魔だとすると、天使はきっと無関心でクールなナイスガイです。頑張って!無関心クールガイ!声援が届いたのか僕の体はさっきよりも左右に振れました。彼女が再び立ち上がり歩き出しました。彼氏は後ろをついていきます。
「あやかろうとしないでよ!」
(以下省略)
まずいですこの軌道は。あのカップル、腰掛にそって一周回ってくる感じです。あ、来る、来る、ここですか?またここ座ります?ああ、やっぱり座った!
僕は体を揺らすのをやめて、右手と左手を使いエアードラムをやりだしていました。ドラムとかやったことないけど。これクールか?大丈夫なの?ちゃんと無関心装えてます?不安になって無関心クールガイの方を見ると「ギブっす」の声が聞こえてきたので、3周目が来る前に僕はその場を立ち去りました。